※現パロ転生ネタ。家康だけ転生できず。二人は会話出来ていません。


ずっと見ている。
空の上からお前を。

ワシは、何千人もの人に祀られたせいで(いや、おかげなのだろうが)、現世を生きる苦行を、もうしなくても良いと言われた。

ワシとしては、三成と同じ下界に生まれたかった。

また、一緒に生きたかった。今度こそは。

なのに、ワシが望んだからと言って、現世に転生はさせて貰えなかった。


だから、こうして、祀る人の願いを評議しながら上からお前を見ていた。


転生した三成を見ていたある日、そんなに会いたいのなら、一日だけ動物の姿にしてやると言われた。

何故動物なのかは分からないが、会えるなら構わない。

好きな動物を選べるそうだ。

「うーん、今の三成に自然に接触出来るのは、猫かな。」

足元に出来た、大きな黒い渦に吸い込まれる。

気が付いたら、懐かしい草の香りを感じた。


「にゃー(なんだ?本当に猫に?)」

可愛らしい手には薄茶色い毛と肉球。

「にゃにゃにゃにゃー!(これで三成に会える!)」

三成が産まれた世は、すっかり戦国とは変わっていた。

三成は、制服を着て、道を通る。

「にゃあ!(三成!)」

「な、んだ?タヌキか?」

え?

「にゃあ(猫だぞ)」

ワシは三成に擦り寄る。

「何でタヌキが?」

猫だって。
ワシが見上げると、三成はしゃがみこんで、なんと、微笑んできた。

「にっ、にゃにゃにゃにゃ!!」

あの三成が!
ワシが人間だったら、とんでもなくだらしない顔をしてしまったに違いない。
顔が熱いのを感じる。

いや、人間のワシにだったら、こんな風に笑ってくれない。
複雑な気分だ。

「腹が減っているのか?何も持っていない。」

指先で顎の下を撫でられる。

わー、触られてる!?

指が止まり、両脇を抱えられて、宙に浮かされ、ジッと眼を覗き込まれる。

近い近い近い…

三成は、暫くワシを見ると、地面へ下ろし、また、歩き出す。

ワシは慌てて駆け寄った。

少し歩いては振り返り、ワシは足元へ擦り寄り、また歩いて、振り返り、擦り寄るのを繰り返す。

何度か繰り返すと、三成はワシを抱えて道を引き返した。

空の上から見ていたから分かる。家へと引き返して居る。

ワシを抱えたまま家の中へ上がり、冷蔵庫からミルクと魚を取り出して皿へ乗せてくれた。

魚…泳いでる姿のままなのだが、頑張って歯を立ててみた。
無理だ。

「にゃあ(三成、生魚はむりなのだが…)」

そもそも、空腹感も無く、味も分からない。

「タヌキは何を喰うのだろう?」

ワシを見ていた三成がポツリと言う。


ここまでタヌキだと言われると、神が間違えてタヌキの姿にしたのではないかと思う。

しかし、ニャアと鳴いているしな。
タヌキは何と鳴くのだ?
いや、どうでも良いなワシ。


「私の知るタヌキは、何でも喰っていた。天ぷらを食べて死んだと書いて有ったが…いい気味だ。」

「にゃ!(何だと、ワシもそう書かれている教科書を見たが、それは違うんだ!)」

と言うか生前のワシは人間だぞ。


三成は、魚を捨てて、代わりにドーナツを乗せて、ワシの前へ差し出した。

これなら食べられるだろう?と、自信ありそうな顔が物語っている。

ワシはペソペソと食べた。

「にゃあ…(豊臣時代に、食べ切れない量の食事を、ワシに喰わせていたなぁ、お前)」

記憶がリンクする。

三成が微笑んだように見えた。

三成は、食べ終わったワシを抱えて、外へ下ろし、学校へ向かう。

ワシは、三成の学校が終わるまで待っている事にした。
待つのは得意だ。

放課後、校門の前に居ると、何人もの学生が寄って来て撫で回される。

三成を見つけ駆け寄った。


「それが、貴様が言っていた、タヌキ猫か。」

「わー!猫ちゃん可愛いです!」

三成の横に、転生した毛利と鶴姫が居た。

「何だぁ、猫か?」

元親が後ろから来る。

ワシも転生出来ていたら、皆と一緒に居れるのに…。
でも、この姿でも皆と会えて嬉しい。

「何処がタヌキなのだ?」

毛利が覗き込んでくる。

「普通の茶虎じゃないですか?」

「おめーにベッタリな所は確かにタヌキだな。」

「うるさい、似ているだろう?」

三成以外、満場一致で、猫と認めて貰えた。

「こいつ、捨て猫なのか?」

ひょいっと、元親の大きな手に掴まれ、胸のあたりで抱きかかえられる。

鶴姫が、凝視した。

ワシは三成に手を伸ばした。

「お前、よっぽど好かれてるなぁ。やっぱりタヌキと相性い」

元親が途中まで言って、元就に肘打ちをくらわされた。

「おそらく捨て猫だ。腹をすかしていたのか着いてきたし。私の家では飼えないから、誰か、飼い主が見つかるまで預かってくれ。」

「家なら飼ってもいーぜ。」

元親が笑う。

!!大変だ!今日しか時間が無いのに、このままでは元親の家に連れて行かれてしまう。

「にゃー(ちょっとまってくれ)」

「駄目です!」

一斉に声の主を見ると、鶴姫が厳しい顔をしている。

「そのタヌ猫ちゃんは、三成さんと居るべきです。」

皆が怪訝に鶴姫を見つめる。

「懐かれているし、三成さんを好きなんですよ!最初に見つけたんだし、1日だけでも、預かってあげて下さい。ね、猫ちゃん。」

「にゃあ!(今は鶴姫が神に見えるよ)」

ワシは頷く。

「…1日しか無理だからな。」

ワシは元親の腕の中から、三成にポンと渡される。

わー、腕の中!さっきは、ずっと宙ぶらりんな持ち方だったからなあ。ワシ幸せ。

鶴姫が耳元で、
「良い一日を。また会える日まで」
と囁いた。



三成の家に着くと、三成は家族に事情を説明していた。

途中のコンビニで買ったキャットフードと猫缶を皿に出される。


覚悟はしていたが、食べなければ!
味覚が無いのが救いか。

「良くこんな物が食えるな。」

猫だから当然だろ。
眉間を寄せた顔を向ける。

首根っこを掴まれて、お風呂に連れて行かれた。

ちょっとは期待していたけれど、
ワシを洗うついでに、
あろうことか、自分も服を脱いで、入浴するようだ。
ワシ死ぬ!

「にゃにゃにゃ!にゃ!(三成、やめた方がいいと思うぞ)」

…三成は隅々まで洗ってくれた。
しなやかな細い指でそれはもう繊細に。
猫で良かったと思った。

三成は、お変わりなく色白で美しかった。

湯上りに自室で髪を乾かし、ワシの身体を乾かすと、ひょいと胸に持ち、 ベランダから外を見る。

空に満月が出ていた。

「ここは東京だ。かつての江戸。」

三成はワシを床に下ろし、何かの参考書を開いて書き物を始めた。

その姿を見ている。

もっと触れていたい。
ワシに身体が有れば…。
やっぱりワシは強欲なのか。

こんな男が祀られてるなんて、笑っちゃうよな。


暫くして三成はベッドに入る。
隣りを開け、ここに来いと言っている。


なんてオイシイ絵づらなんだ!?

ワシはただの猫だけど。

それでもいい。
明日からまた、空から見つめるだけだ。今日はずっとくっついていよう!

肉球で三成の腕にしがみついた。


「…家康なのだろう?」

「にゃあ!?」

電気を消した部屋で三成が呟く。

「そう思っていた。かつての巫の態度で確信した。」

「にゃ(なのに、お前…風呂に一緒に!?てか、キャットフードとか…え…)」


「明日には消えているのか?」

ワシは鳴かない。

「昔とは何もかも変わった。貴様が作った世も悪くはないな。」

え?それって、

「にゃあ(許してくれるのか、三成?)」

「秀吉様ならもっと上手く作っただろうが…」

ワシは三成に、肉球を掴まれて寝た。

三成が小さな声でワシを呼ぶのが聞こえた。

「にゃあ(三成…)」

また、黒い渦が見えて、気がつくとまた光に包まれた場所で、下界を見下ろして居た。


神様、やっぱり、肉体を下さい!

東照権現の勤めを頑張れば人間になれるだろうか?

ワシは、三成を抱きしめたい。