【見なくても良いと言われた】


いえやす?,,,,,
それは、私にとって、大事な何かだった気がする。
だけれども、思い出せない。
思い出そうとすると、頭を、輪で締められるかのような痛みが走る。
忘れても良いと、優しい声がした。
思い出すのを放棄した。





「なあ、石田がお前だけが見えてねえって、本当か?」
かつての西海の鬼は、あの時と変わらない碧眼で、家康を覗きこんだ。

その話はタブーだってと、場の空気が凍りついた。
政宗、幸村、慶次が、元親から家康に視線をうつす。

「まあ、そうなんだ。」

かつての天下人は、相変わらずの微笑みを見せた。

各々、現世でも再会していた。
元親は最近現れた。

「どう言う事だよ?石田は前世の記憶がねえのか?」

「それが、有るんだよねぇ。」

慶次が、苦笑する。

「皆覚えているのに、徳川殿だけは誰だったか分からぬようで、まるで透明人間のように接して居られる。」

「あいつ、人の顔覚えんの下手だからな」

三成と同じ大学の、幸村と政宗が言う。
政宗の発言は少し違うかもしれない。

家康の顔は、前世で見た事も無いくらい、曇っていた。

「今も呼んであんぜ。」
政宗はニヤリと笑った。

「あんたが驚く人だよ。」

慶次が花が盛んばかりの笑顔を見せる。

言うや否や、ファミレスに、二人が現れた。

「毛利!」

「なんだ、うるさい。」

毛利元就が、学生服に身を包み、怜悧な顔を鬱陶しそうに、元親へ向けた。

元親は、思わぬ人物の登場に面食らう。
その後ろに、毛利同様に、変わらない白銀の髪の三成が居る。

「おめーら、久しぶりだな!」

元親の屈託の無い大声が店内に響く。

「貴様、静かにしろと申しているであろう。相変わらず脳まで筋肉なようだな。」

「変わらねーなぁ。石田も元気か?」

あの頃より血色の良い三成は、ああと頷く。
皆で近況報告や、話に花が咲く。

元親は、三成がやんわりと笑う顔を見て、脳がそれに気付いた瞬間、ブワッと赤面した。
元就と家康以外の誰もが経験した事だった。


平和な穏やかな世で、「秀吉」と言う存在もない彼は、微笑んだり、静かに平穏にしているのだ。

「石田ぁ!」

泣きたいような感慨が浮かんだ。


「何だ貴様!」
三成は身をかわし、
思わず、抱き締めようとする元親の手を、元就が叩き、阻止する。

そんなこんなで会話をしていく中で、言われていた通り、三成が家康を無視している事に気付いた。

「おいおい、家康を無視しているってのは本当みてぇだが、良くねぇぜ!   」

それまでの空気が凍りついた。

「無視?何を言っている?」

「大人げねーじゃねーか!家康もそれでいいのかよ。」

三成は眉間に皺を寄せて考えている。

「…いいんだ、元親、…三成にはワシが見えてないんだ。」

「んな馬鹿な!」

元就が明らかに元親を睨んでいる。

「おいおい!!石田!ここだよここ!家康…人が居んだろ!」

元親は、隣りの、一番奥に座る家康の肩を両手で掴み、主張する。

「…」

幸村、政宗、慶次に何度もされた事だった。
始めは、馬鹿にしているのかと怒っていた三成も、自分は見えない何かが居る事に納得していた。

「私には見えない。」

「そ…うか。」

元親は周りの面々を見渡す。
皆、当たり前のように、平然としていた。

どこまで覚えているかなどの話しをした。

三成は、敵対していた誰かとしか、家康を認識していない。

「だから、前世で名前をshoutしすぎたんだろ。」

「違うよ!きっと、何かあるんだ!こう、大事な何かが!」

「思い出せぬなら良いではござらぬか。」

政宗、慶次、幸村が言い合う。
元就は黙々とパフェを食べている。

「いいんだ、皆、三成がワシを見えない事は放っておいてくれ。」

「いいはずねーだろ!」
おめーの大切な人じゃねーか!
よりにもよって、三成に存在を否定されるのは辛いに決まってんだろ!

元親は、三成の手を取り、家康の腕に触れさせた。

「ほら、ここに居んだろ!」

三成にはただの空間にしか見えないのに、そこに有る生暖かい感触にバッと手を引く。
動揺した三成の顔に、皆が、元親に殺意を覚えた。
家康も、恐怖に染まったような顔をしている。

「分かったよ。悪かったな。」

元親は、三成には見えない家康と言う現象に、無理やり納得した。




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