吉継+三成
マジ権現嫌い三成


*
*
*



「ここは,,,」

闇しかない場所だった。
どのくらいだろう?随分さ迷った。
自分の周りだけが蒼白く光っている。

「三成」

「刑部!」

闇にポウッと浮かぶ人影を見つけた。
薄赤い光の中に、一番親しい人間が居て安堵した。

「私は、死んだのか?」

「三成、ぬしは死んではおらぬ。」

「どういう事だ!?」

死んだと思った。
家康と刃を交え、自分は負けた。
万が一、相討ちでも、ここは現実では無い。

「三成、聞きやれ。」

一呼吸置き、大谷はいつもと変わらない調子で、喋る。

「ぬしは、目覚めたら、徳川の城
の中よ。」

「…どう言う事だ?」

「聡いぬしなら言わずとも分かろ。そう言う事よ。」

「!!」

「三成、ここでまで叫ばんでくれ。ぬしは今までに充分叫んだ。もうよかろ?」

大谷は微笑む。


「刑部、あの馬鹿狸は、私を生けどりにしたのだな。」

「…ああ。」

三成は、意外と冷静にしている。

「お前は、もう、この世には居ないのだな。」

「…ああ。」

三成の瞳が揺れる。

「刑部、私はいつ処刑されるだろう?」

「三成、我はな、ぬしが言いたい事は全て分かる。落ちついて聞きやれ。ぬしは、処刑されぬ。」

三成は、潤んでいた両の目を見開き、こちらを見つめると、凍りついたように動かず、青ざめていく。


「私の考えていることが分かるのか?……私が考えて居る事は当たっているか?」

「ああ、当たっておる。三成、我は主に知恵を貸しに来た。」

三成が激昂する前に、話しをする。
嘆き苦しむ姿をもう見たくないのだ。

「知恵だと?」

「さようよ。」

三成の顔が歪む。


「刑部!私は死にたい!この期に及んで…生き恥を…。私は、いよいよ秀吉様と半兵衛様に顔向け出来なくなる!…刑部…お前と、お二人の元へ行きたい。」



三成は、何かが切れたように、涙を流す。今まで我慢していた物が決壊したように、美しい瞳からポロポロとせめぎ溢れる。


「三成、ぬしは、もう叫ぶな。」

涙を掬ってあげたくても、肉体に触れる身体が無い。

「私は、…もう自分で居られなくなるかもしれない。」

子供が泣くように、しゃくりあげながら、やっと話している。

「お二人はな、死して長く、もう遠くへ行きやったから、ここへは来れぬのよ。ぬしは、徳川の稚児なぞやらずともよい。」

いや、させるものか。

「刑部…」

三成は、涙を止めて顔を上げる。 ふと、冷静になったらしい。

「私は、自決しよう。」

「三成、早まらずともよい。」

そもそも、自決など出来まい。
どんな手を使ってでも、あの狸は止めてくる。
それでは、三成が悲惨な目にあってしまう。

「三成、我と約束してくれ。」

「なんだ、約束?」

「さよう。我とこの世で最後の約束よ。多少、無茶を言うが、最後だからな。」

大谷は愉しそうに微笑む。

ー楽しくなどないがな、生前の三成との出来事を色々思い出すのよー


「刑部、何だ?」

三成は、また涙を流している。

「そう、約束してくれ。もう、叫ばぬと。」

「…。」

唖然とした顔を向ける。

「ぬしは、目覚めて徳川を見ても、知らんぷりをせい。記憶が無いふりをするのよ。」

三成は、眉間にこれでもかと言うほど皺を寄せている。

「ああ…分かった。約束する。記憶がないと言うのは…」

三成は、困っている。

「考えも取り方よ。徳川を恨んでいる事の記憶が無いふりをするのよ。太閤殿を手にかけられた事を忘れれば良かろう。…フリをな。関ヶ原の戦いも、忘れたフリをいたせ。」


「何故だ?」

「やつは、まずは惑う。そして次に喜ぶであろう。欲深い男ゆえにな。しかし、その後は苦悩する。ぬしが記憶を取り戻す事に恐怖する。それを、傍観しておれば良い。ぬしが主導権をにぎりやれ。」

今まで手を出さずに居たものを、手を出せるかも分からぬ。

淡いかもしれないが、そんな期待をする。
こんなに無垢で綺麗な物を、今まで触れられなかった物を、ぬしは汚せるか、徳川?


「徳川の事は、徳川と思わねば良いのよ。出来れば、笑ってやれ。ぬしにする事は、非道の極みよ。内心…悟られぬようにな。微笑よ、微笑。」


三成は、唖然としている。頭に手を置き、何か考えているようだ。



……何か有ったら、ゆるりとこちらへ来やれ。

ぬしは、約束は必ず守る男ゆえな。

大人しい三成なら、幾らでも、こちらへ来れる術は周りに与えられるだろう。


「…刑部、私とも最後の約束をしろ。私がそちらへ行ったら、ずっと一緒に居ろ。」


「…必ず居やる。」


聡いぬしなら分かったであろう?
ぬしと会えるのはこれでお終まいよ。



…この姿ではな。



闇が、急に白く染まっていく。三成が、この曖昧な世界から覚めるのだ。


「そちらへ行かずとも!そちらへ行って、それから何が有ろうともだからな!私が叫ぶのはこれで最後だからな!」

「うむ。ではな。」


相変わらず、愉快な男だ。



ー またいつかー



大谷は微笑む。




end.


to be continu…






監禁されても、静かに自分を保って欲しいと思って書きました。
家三が一番好きです。