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-繋ぐー version2



「斗南?」

三成の縁者を捜して居た。
皆、あの時に死んだか処刑された。

あれから、随分時が過ぎた。

ただ、お前の欠片でもいいから、お前を見たくて。

そんな事をしても何にもならないのに。
年を重ねる程、会いたくて会いたくて。



一番信用出来る忍にだけ、捜索を命じていた。

もし見つかっても誰にも洩れないように。

初めから期待は出来なかったのに、
ある日ふと夢は叶った。

日のもとの一番北の外れ、斗南に居るらしい。
そんな所まで逃げたのだと思ったが、かくまった方にいわれが有るそうだ。





西軍だった者を匿って居たとしても、誰にも処罰を下さないと、『家
康 』の名が有る書を見せた。

話しをする体格の良い初老の男は、誰と名は出さないが、西軍の武将に生前に救って貰った恩が有るのだと言う。

内心で笑った。
そう言う奴だった。

おおかた彼は、義を通しただけなのだろう。
そして好かれる者には、命懸けで好かれるんだ。

話しを聞きつつ、屋敷へ向かった。
誰も、自分を徳川幕府の祖・将軍だとは思っていない。
家臣に見えるように変装もして来た。

屋敷の前で、子供が数人遊んでいた。


中に一人、黒髪で、一見其処いらの子と変わりないが、よく見ると、顔がやけに整っていて目が金色がかっている子が居る。

笑っていたその子と目が合うと、こちらを睨みつけ眼が金色を増した。
子供達は、走って何処かへ行ってしまった。

「今の子だな。」

「…。」

間違う筈がない。
あの眼を、血を。


屋敷の主人が言うには、父は関ヶ原の大戦で亡くなったそうだ。
病弱な母親は、言われた通りに斗南を頼り、子を産み、育て、最近亡くなったそうだ。
その子供を自分が育てていると言う。


その子は賢く穏やかだと言う。
上には血は途絶えた事にして貰えないだろうかと膝をつかれた。

書状が有る以上、何の咎もないが、
もしもバレたら只事でないので、消しておきたいのだろう。


了承して、帰る前に、会わせてもらえるように頼んだ。


齢は十くらいだろうか?
丁度、関ヶ原から数えて、その位だ。

子供は、こちらを睨みつけながら、嫌そうに入室して来た。


「近寄るな!」

「何もしないよ。ワシは…お前の父の友だったんだ。」

ニコニコと笑いながら言うが、言いながら想像以上に動揺した。

置いてある茶を啜り、子供に目を遣る。
…この子が穏やか?
毛を逆立てて威嚇しているようだ。
三成と同じ目がこちらを、同じように怒って見ているので、目頭が熱くなった。

何よりも、懐かしく、色々思い出すのだ。


「そうだ!良い物を持っている。」

黄色い服をパンパンと叩き、探す動作をして、懐から金平糖の袋を取り出す。
斗南では、こんなに蒸溜した、純粋な砂糖は珍しいだろう。
色とりどりの、綺麗な星の形。

「甘い物好きだろう?すごく甘いんだ。」

膝を折り、同じ目線にして差し出すが、振り払われてしまった。

青・黄・桃色の粒が、無残に土の上に散らばる。
それを眉を寄せてジッと見て、子供に向き直る。

怒られると思ったのか、瞳に不安が浮かんでいた。

「嫌いなのか?」

金平糖も、ワシも。
哀しい顔をしてしまった。

「嫌いだ。お前は、嘘つきの目をしている。」

澄んだ金色の眼は、その眼の前では嘘も見通されるのが 冗談じゃないと分かる。


その眼で、血で、この子供も彼と同じように汚い物を否定するのだ。
…どうしても欲しい。
だってワシにはあの頃から必要なんだ。

正しいものを正しいと言う。
間違っているものを間違っていると言う。

初めて会った、幼い頃、木漏れ日の下から。
ワシにはお前しか…。

目を緩めたワシに何かを感じたのか、子供は、膝をあげ、退室しようとする。

…この子は三成じゃない。
そんなのは分かる。
三成はもう居ない。


「待ってくれ!お前が望む物は何でもやろう。して欲しい事が有れば何でもする。ワシと来てくれないか?」

「…」


去ろうとする子供に呼び掛ける。
子供は、足を止めたが振り返らずに走り去った。


ざまあみろ馬鹿めと三成が、口角を上げて言っているような気がした。


三成、ワシはお前に会いたい。

掴もうと差し伸べて開いた掌をギュッと締める。


欠片でいいから。幸せにできるなら。近くに居てくれるなら。そうしたい。







「何故あんな失礼な態度をとったのだ!?殺されたらどうする!?」

奴が帰った後、離れた所で様子を見ていた養父が、肩を掴んで叱咤して来た。
厳ついが優しい人だ。

私の亡き父に世話になったそうで、自分の子供と隔てなく、寧ろ手厚
く育ててくれている気がする。


私は、穏やかに、何の不満もなく暮らしている。


何故か?
家康が嫌だからとは言えない。
あれが、徳川家康で無ければ何なのだ。
母から聞いた事で分かる。

いづれ太陽が迎えに来ると言っていた。
きっと、私の中の何かが、あの男を眩しいくらいに光らせている。


「あの者と、そりがあわないのです。」

養父は眉間に皺を寄せた。


置いて行った金平糖は、色とりどり。
それは、初めて経験する強い甘さだった。






将軍から登城命令が届いたのは、それからすぐの事だった。