家康の屋敷

「夢?」

酔わされた男が、フラッと顔を上げて尋ねる。

「ああそうだ。お前は目を覚ましたら佐和山の城に戻って居て、いつもどおり目を覚ますんだ。」

低さを聞かせた声色で、家康は三成に言い聞かせるかのように言う。

「そうか、これが現実な筈はないな。」

妙に楽しいと、フッと静かに三成は笑った。
家康はその貴重な笑顔に見惚れる。

「…何をする!?」

身体を乗り出して、三成の細い手首を捕まえる。

「黙って居てくれ。」

「やめろ。夢で有っても、許可しない。」

「今日だけだ。」

「…」


今日だけ。最初で最後。だから、下道な手段を使ってしまった。
酒に調合した物で、
今の三成の意識は、フワフワと夢と現をさ迷い、夢を見ているかのようだろう。


許可しろと耳元で低く言うと、抵抗は無くなった。

触れるのさえ緊張して震えた。
隙もない甲冑姿では無く、お互いに柔らかな布を纏っている。

触れたら、歓喜で、脳の中心が痺れるようだった。
いちいち声に出して感動を表したかった。

唇が重なる。戸惑う様に軽く触れ合っただけだったのが、求め合っていたかのように濃く長くなる。
前から一つだったかのように離れ難い。


「…目が覚めたら…いつもどおりに…」

三成が、うわ言のように言う。

「そうだ。」

どうか忘れて欲しい。
辛いだけだから。

「好きだ三成。」

三成を秀吉教から改宗出来なかった。それが三成の中心で全てなのだから。
だから袂は別れる。
でも、どうしても。

「好きだ。」

痛さを伴う行為をしながら、何度も言ってやる。

「好き、好きだ、大好きだ、」

ずっと言うのを我慢していたのが、たかが外れて、止まらない。

耐えている三成が、目を開けジッと目が合う。

「…みつ」

「愛している」

「!!??」

はあ、何を言っているんだろう、三成は?
愛?eye?I?

誰かと間違えて…

バクバクと鼓動が早まる。

駄目だ。聞いてはいけない。

忘れるためなのに、囚われてしまう。

「家康…」

唇を重ねて言葉を飲み込んだ。
かわりに涙が溢れた。

好きで、好きで、好きで、離れたくなくて、
離れたくないのに…。


三成が夢に落ちているのを確認して、呟く。

「ワシも、愛している。」



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目が覚めると、言われた通り、佐和山の城に居た。

いつもと変わらぬ寝間着を着て。

昨晩は夢であったとの偽装がなされている。

こんなに鈍痛を身体に帯びさせておいて。あいつはやはり馬鹿だ。

白い寝間着で部屋の障子を開けて、眩しい日光を浴びる。

家康が離反したと聞くのは、そう遠くない時間だった。


end