※労垓は無視しています。
伊東派に分裂時。
やや長文。



ー流れー




人の心は移ろいゆくものだと、分かっている。


「で、総司との事なんだか…」

「承知しております。」

俺にしか頼めない事が有ると言われた。

それは、新選組の為に、しなければいけない事だった。

副長が言っているのは、敵を欺くには…と言う事だ。

この諜報活動を知っているのは、局長と副長、監察方の山崎だけだ。


全ては新選組の為に、
大切な相手さえ欺くのが当たり前だろう。



「総司、話しが有るのだが。」

きっと自分は青ざめている。

「なあに、はじめくん。」

そんな、キラキラした目で嬉しそうに見つめないで欲しい。
何も楽しい事なんかない。
今から、傷つけなければいけない。
そんな事したくないのに。


「…別れて欲しい。」


「え…、何で?」

顔を見れない。
きっと、その顔を見たら傷つくだろうから。

これは、しなければいけない事で、心など殺さなければ。
中途半端では意味がない。

何度も自分に言い聞かせて、ギュッと、拳を握り、目を合わせる。

「好きではなくなったから、この関係を続けたくないんだ。」

自分に感心した。

翠色の瞳が僅かに揺れている。
何も言わずに、こちらを見つめる瞳に、心を見透かされそうで、目を反らす。

「…話しはそれだけだ。」

いたたまれない。
今すぐ走り去りたい。

「嫌いになったの?僕、何かした?」

「ああ。好きではないと気づいたと言っているだろう。」


任務なんか無ければいいのに。
元通りになる、そんな時が来たら良いのに。

その時にも、好きでいてくれるのだろうか?
傷つけた俺を許してくれるだろうか。



手を掴まれそうになって、振り払う。

その、哀しそうな瞳を見てしまった。


何も言わずに、その場を逃げた。

*****

ワイワイと賑わう食事処。

非番の日に、一番隊の皆と来た。

…。

中に入って、居合わせるのは、あの焦がれてしょうがなかった君。


其処には、御陵衛士の面々が居た。


御陵衛士と新選組は、話しもしてはいけない。
土方さんが、また切腹だと言っている。

後から入った僕たちが、出て行かなければ。

場に張りつめた緊張が走っている。
お互いに敵意を剥き出しの感じだ。

「他に行くよ。」

斬りたいのは僕も一緒だ。

言いながら、目は、はじめくんを見ていた。

良く分からない面々の中で、端整な顔立ちと物腰しは相変わらず目をひく。


ちゃんとしてるかな?
君の事だから、抜け目なく真面目にやってる。
でも、どこか抜けている面白さに誰かが気付いたかな?
伊東に変な事されていないかな?


馬鹿な事を思っていると思い、哀しくなる。

はじめくんは、目を合わせると、すぐに反らした。


もう、どうでもいいんだ。
道を違えた今。

近藤さんの敵は、僕の敵で、そこに君が居る。

今も君を好きなのは、僕だけ…。


斎藤は、出て行く一番隊の面々の、沖田の背中を見つめて居た。


****

「と、言う事で、今日から斎藤は、新選組に戻る。」

目を閉じている近藤さんの横で、土方さんが喋っている。

幹部が集まった部屋で、話しをされた。

皆、眉間に皺を寄せて閉口している。

そして、明日、新選組は伊東を斬ると言う。

怒涛の急流のように、時も感情も…。


「でもよ、斎藤があの伊東なんかに着いて行くなんて、絶対オカシイと思ったんだよな。」

永倉が口火をきる。

「誰にも言うなと俺が命令したんだ。」

土方さんが言う。

話しは平助の事になった。斬るのか、どうするのか。

不思議と、波一つないように、心は落ち着いていた。

伊東を斬れるのか、それは良かった。

はじめくんを見る。

凛として、何も変わらない。
任務完了って所?

僕を嫌いになったって言うのは嘘?

分からない。


場の話しは、平助を、こちらに戻るように説得しようと言う事になった。


****

あっと言う間に時間は過ぎる。

伊東の暗殺。
平助は戻って来た。


僕とはじめくんは、特に話しもせずに、2人きりで顔も合わせても居ない。
正確には、忙しかったのと、顔を合わせる由縁もなかった。



でもそれもまた、ある日突然やって来る。

外に出て、月を見ていた。
今夜は、ひと欠けも無い満月だから。

「…」

大きな川辺の道。
何で、広いこの街で、こんな所で出くわすんだろう。

明るい月が、お互いを照らし出す。
何も言わずに、立ち尽くす。


「…何してるの?」

「散歩だが…。」

…。

聞くのは怖い。

「やっぱり、君って僕の事を嫌い?」

「…ああするしか」

はじめくんは、俯いている。

「総司?」

手を掴み、引き寄せた。

「好きか嫌いか聞いてるんだけど。」

「好きに決まっているだろう。」


腕の中に、はじめくんが居る。
ずっと、こうしたかった君が。

月は調度良く、雲で影を作ってくれる。


end


きっと涙や色々を隠してくれる。