ー鈍くてー
はじめくんと千鶴ちゃんが一緒に居る。
もう随分前から、この光景を見ると胸がズキズキした。
どうやら僕は、恋をしているみたいだ。
こんなに、ヤキモキした気持ちになるなんて、今まで初めてだった。
何度思い出しても、やっぱりズキンと胸が痛む。
「…と言うわけで、千鶴ちゃんを好きみたいなんだ。」
「何故俺に言うんだ。」
綺麗な蒼い黒髪の持ち主が、蒼い眼で見つめている。
「何でだろう」
はじめくんが頭に浮かんだから、そうするのが当たり前だと思った。
「俺も雪村を好きだと言ったらどうするのだ?」
「そうなの!?」
そんなのは絶対に駄目だ!
翠の瞳がぐっと近づいて、斎藤は後ろに仰け反る。
「いや、そうではない。」
「そう、良かった。」
赤面する斎藤に気付かず、ニコッと微笑む。
「よほど、雪村の事が好きなのだな。」
「そうみたいなんだ。千鶴ちゃんが君と居るのを思い出す度に嫌な気持ちになる。」
「そうか。」
斎藤は眉間に皺を寄せる。
複雑な気分だった。
「直接伝えたら良いのではないか…」
そうだねと、沖田は立ち去る。
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「千鶴ちゃん」
雪村は、藤堂と夕げの仕度をしていた。
「はい?何でしょう…」
沖田にニコッと笑いかける。
「ちょっといいかな。」
「何だよ総司、食事の準備中なんだから、早く返せよなー。」
藤堂が、口を尖らせる。
「うん。ちょっと2人並んでみて。」
頭にハテナマークの浮かんでいる2人を並べて見てみる。
あれ?…何とも思わない。
「ちょっと来て。」
沖田は、千鶴の手を引き、かって場のすぐ横の戸外に連れ出す。
「あの…どうされたのですか?」
雪村は、朱に染まる頬で心配そうに見つめた。
「うん、あのさ…」
…やっぱり違う。
「沖田さん?大丈夫ですか?」
「ちょっと具合が悪いみたい。」
平助が千鶴ちゃんを呼ぶ声がする。
謝って千鶴ちゃんを帰した。
沖田の様子と具合を気にする雪村に、藤堂は、いつもの事だろーと言う。
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「…て事で、僕は千鶴ちゃんを好きじゃ無かったみたいなんだ。」
「…そうか。」
先程の蒼が隣りにある。
「いちいちそれを言いに呼びに来たのか?」
斎藤は外で素振りをしていた所を掴まえられた。
「うん。」
「…」
勘違いで、フラれたわけでもないのに、俺はそれを聞いてどうしたらいいのだろうと斎藤は思う。
「僕、どうしちゃったのかな…」
こんなの初めてなんだと、ハアッと、溜め息をつく。
「雪村は可愛いし、好きだと思うのは無理がないのではないか?」
フォローを入れたつもりだったが、沖田の顔が凍りつく。
ご飯だと言う声がして、斎藤は用意をしに向かった。
はじめくん、やっぱり千鶴ちゃんを好きなのかな?
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一番最後に食卓についた。
斎藤は黙々とご飯を食べている。
凝視してしまっていた。
「どうかしたか?」
「いや、別に。」
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晴れたある日、
はじめくんが土方さんと居る。
もし犬なら、尻尾を振っちゃってるな。
どうやら僕は、君を好きなみたいだ。
end