土→斎、斎→沖から沖→斎、沖斎
長文。
※土方さん好きな人は注意して下さい。失恋など。
at 京に来てから。




-polaris−




聞きてぇ事が有る。
そう言われて部屋に呼ばれ、嫌な予感がした。

土方さんが僕に用事だなんて、嫌な事しか思い付かない。


「斎藤の事をどう思う?」

「は?」

やけに真面目で、何を言われるかと思った。
深呼吸をしたような動作をしてから口から出された言葉が、突拍子も無い事で面食らう。

「意味が良く分かんないんですけど。」

また、江戸に帰れとでも言うと思ったのに。

「好きかどうかって聞いてんだよ。色恋的な意味でだ。」

「何言ってんですか?」

色恋?ますます分からない。

「真面目に聞いてるんだ。」

きっと僕は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。

「はじめくんとどうにかなりたいって事ですか?」

「どうにかじゃなくて、付き合いてぇんだ。」

付き合うって?

「逢い引きしたり、好きな相手にする事を全部してえ。」

聞いてもないのに、土方さんは、僕が何を考えてるか分かるかのように、顔色一つ変えずに言う。

「へ、へえー。」

「好きじゃねぇんだな?」

「…ええ。」

土方さんの口角が上がったような気がした。

「俺がとったとか、後でぜってー言うなよ!」

鬼の首を獲ったかのように、いい放たれ、ウルサイし、ムカツクし、衝撃的すぎた話のせいか、頭が上手く回らない。


「言うはずないじゃないですか。」

僕は言い放つと自室に戻った。


頭がモヤモヤする。

土方さんが、はじめくんをね。


はじめくんは、土方さんを慕っている。
きっと両想いなんじゃないかな。

て、事は、土方さんが言ったように、あんな事やこんな事をするって事?

なんだか心臓の辺りが痛い。
目眩もする。

きっと、ビックリしたからだ。

僕は、寝る事にした。

心臓の痛みは消えてくれるどころか、ハラハラと何かを急かすかのように酷くなった。



「って、事だ。聞いてたか?」

土方が、自室の押し入れの襖に向かって話しかける。
返事は無い。

「…。」

押し入れに近づき、スッと襖を開けた。

膝を折って座っている斎藤は、顔を腕で隠して、動かないでいる。

「おい。」

土方は、手を引っ張る。

涙で潤んだ藍色が見える。

「斎藤、俺の物になれ。」

つけこんでるのは分かっている。
でも、こうでもしないと、先には進めなかった。

総司は、色恋沙汰に滅法弱く、相変わらずだし。
それで助かったが。

片想いをしている相手を、無理にどうこうする趣味は無く。
結局、自分の為に、斎藤に納得させる為に、こうした。

俺は、斎藤を押し入れから引っ張り出すと、顔に手をやり、顎を上げる。

「副長、俺は、総司が」

「いいから、もう奴の事は考えるな。」


最初から、自分のものに出来る自信はあった。
この男は、総司を思って居ても自分を拒めない。

誰よりも愛してやれるから,,,。

ゆっくりと身体が重なる。


あれから、はじめくんを意識をしてしまう。

顔をまともに見れない。

落ち着いた今でさえ、ハラハラした気持ちが何故か治まらない。


「最近、斎藤を無視してねーか?」

八木邸の片隅、不意に二人きりになってしまうと、土方さんが僕に言う。

「なんですかそれ?してませんけど。」

聞きたくない。
元はと言うと、土方さんのせいじゃないか。

土方さんは、そうかと苦い顔をしている。

「はじめくんが、そう言ったんですか?」

「見てりゃわかる。おめぇが意識しなくてもいい。」

睨み付けるように言う。

なんでそんな事を言われなければいけないのだろう。

「喧嘩を売ってるんですか?」

「ああ、そうだな。」

何で?
すごく険しい表情をしてしまった。
ただでさえ不調なのに、目眩がする。

「上手く行かないんですか?僕を巻き込まないでくださいよ。」

いつもの、小馬鹿にしたような笑顔で言う。

「生憎、上手くいってるぜ。だからこそ心配なんだ。身も心も俺のものだから。」

うわ、惚気,,,。
身もって?!

聞き捨てならない言葉に、眉をしかめて土方を凝視する。

「ただ、俺は一日…いや、一時でいいから、おめえになりてぇよ。」

「は??やめてくださいよ。気持ち悪い。」

何を言ってるんだ、この人は?

土方さんは、思い立ったように、歩き出し、立ち去る。

僕は、土方さんがどう言うつもりなのか考えたが、分からない。

僕になりたい?
どうしちゃったんだろう。

…身もって事は、そう言う事してるわけ?
あのはじめくんと?

イライラして頭がショートしそうだ。

気分転換に湯浴みをしようと思う



(※暗いです。

抱いている相手は、俺を見てはいない。

閉じた瞳。
たまに、その藍の瞳とぶつかる。
心の中には、あいつが居る。
はじめから。

眠るその口から紡がれる名前もあいつ。
きっと、夢にもあいつが出てきているのだろう。

喧嘩を売るなだ?

おめえに怒りをぶつけねーで、誰にあたれってんだ。

ああ、いらつく。

飄々と、自分は蚊帳の外みたいな態度をとりやがって。

本当は気付いているんだろう?
俺と同じ胸の痛みに。
この病特有の焦燥に。


屯所内で、よく隣り同士な姿を見かけていた。
話し込んでいたり、ただ、お互いの剣の鍛練を眺めていたり。

総司は自分じゃ気付いていねえが、どう見ても斎藤に惚れている。
俺が気付かねえ筈がねえだろ。

あの二人は両想いだ。

総司が気付けるとは思えねえし、斎藤も想いを伝えるような奴じゃねえから、くっつく事はない。

斎藤が、総司を想っているのが邪魔だった。
だが、納得させて自分のものにしてみても、心は簡単に変えられない。

いつか、二人は結ばれるのかもしれない。
まあいいさ。
斎藤はそれで想いが叶うのだから。

俺が、近藤さんをとっただ?

俺の想い人の心を掠め取って放さねえのはおめえじゃねーか。



浴場の扉に手を伸ばし、開けると、予期しなかった事が起きる。

「あ、ああ、ごめん、いたの?」

八木邸の浴場は一つ、隊士達の入浴が被るなんて事は多々あった。

が、幹部達は、重ならないように、入る時間帯も日も決まっていたのに。

僕がボーッとしていて、間違えたんだと気づく。
いたの?って…。
己の傍若無人な発言に、説教もしくは叱咤されると身構えるが、

鉢合わせた相手は、目を合わせたまま、石のように固まっている。

「はじめくん?」

あまりにも硬直しているので、近づいて、顔の前で手をヒラヒラしてみる。
斎藤は、我に返ったようになり、後ずさった。

「な、何で入ってくるのだ?!今は俺が入る時間だろう。」

「ああ、うん。そうだね。間違えちゃった。どうせだから、一緒に入っちゃおうかな。」

「何を言っている?絶対ダメだ!出直せ。」

斎藤は真っ赤になっている。

こんなに感情を表に出すはじめくんを初めて見た。

土方さんと情を通じているから、身体を見られるのが恥ずかしいのかな?

何だか物凄く嫌な気分になる。

でも、この反応って…。

「はじめくんさ…、もしかしてなんだけど、僕の事好きなの?」

「なっ、何を!言っているのだ!?」

何で更に赤面してんのさ。
僕は、恥ずかしくなって目を背けた。

そう言う事だったのか。

だから、土方さんは僕にあたっていたのか。

「総司、馬鹿な事を言ってないで、出て行け。」

睨んでくる斎藤を気にもとめず、沖田は、ニヤリと笑う。

「ヤダ。折角脱いだんだから、僕も一緒に入る。」

「では、俺が出ていく。」

すれ違おうとする斎藤の手を掴む。

真っ赤な顔の、丸い眼と目が合う。

「放せ」

凛とした、いつものはじめくんでは無く、弱々しい反応にドキドキした。

僕、裸で何をしているんだろう?
物凄く恥ずかしくなって来た。

手を緩めると、スルリと身を滑らせるように、横を通りすぎた。


ああ、何でこんな事に?

自分の順番だから入浴していたら、総司が入って来た。

意味が分からない。


最近、やたら無視されて居た。
あんな事が有れば気持ち悪がられるのは無理もないと思っていた。

だが、入浴時間を間違えたのなら出て行くべきだろう。
奴はあろうことか、一緒に入浴すると言ってきた。

無理だ。
何が楽しくて、自分を振った男と一緒に狭い湯船に浸からなければいけないのだろう。


一刻も早く、この場を立ち去りたい。


「はじめくんさ、…もしかしてなんだけど、僕の事、好きなの?」

「なっ、何を言っているのだ?!」


あんたは、俺を何とも思っていないのを知っている。


ああ、どうしよう。

はじめくんに、もう一度確かめよう。

すっ…好きかどうか。

考えて赤面してしまい、俯く。

じゃあ何で、土方さんに?

顔色が曇る。

気持ちは、すごく軽やかで周りにお花が咲いた物だったり、どんよりとした地の底の気分にもなる。

僕はきっと、はじめくんが好きなんだろう。
彼が土方さんと寝ているのを考えると、今更ながら許せない気持ちになる。
ずっと感じていた、ハラハラした気持ちの原因にやっと行き当たった。

土方さんが、やたら自分のものだと主張して来た、その身体も心も、僕のものなら、めちゃくちゃ幸せた。

もし、はじめくんが僕を好きでないとしても、
一刻も早く気持ちを伝えたい。

座っていた縁側から身体を起こす。


丁度、三番組も非番の日だった。

「平助!はじめくん見なかった?」

「え?さっき出掛けるの見たけど。どうしたんだよ、何か有ったのか?」

急いだ様子に、ただ事ではない気がする。

「ないよ。僕も出掛けてくる。」

ふうんと、平助は素振りを再開した。


暫くして


「平助、斎藤を見なかったか?」

「え、出掛けたけど。何で皆はじめくんを探してんだよ?」

声をかけた土方の眉間に皺が寄る。

「どう言う事だ?」

「総司もさっき探してて、出掛けたって行ったら、出てったぜ。何かあったの?」

平助は怪訝な顔を向ける。

「いや、知らねえ。俺は用事が有っただけだ。」

土方は、自室に戻った。

非番の斎藤と、外を出掛けようと思って探していた。

きっと、懸念していた時が来たのだと察知する。

今、自分は誰にも見せたくない顔をしている。

頭を小さく横に振り、丸めて有った目の前の書類に向かった。


「はじめくん!」

京の街中。

総司の声で振り返る。
急いでいる様子に、何があったのかと頭を廻らせ険しい顔になる。

「はじめくん、僕は君が好きだ。」

「?」

人が往来する、いつもどおりの喧騒の街中。

目の前の見慣れた総司が何を言っているのか分らない。

「はじめくん?」

「…たちの悪い冗談を言うな。」

無視して、行こうとするが、腕を引っ張られる。

「ちょっと、何で無視するの?」

何が目的なんだ。

「俺は今忙しい。あんた、何を言っているのか考えろ。」

手を振り払う。

「忙しいって何所に行くのさ?」」

「着いて来るな!」

だいぶ怒っているのに、総司は着いて来る。



「ねえ、忙しいって…」

僕の告白を無視した彼は、
食事処で、豆腐を食べている。

丁度、昼どきだけどさ。

「あんた、食べないのか?」

「うん。それどころじゃないって言うか、食欲が無いかな。」

苦笑する。

「食欲が無くても、食べなければ」

「うん、分かった。食べる。」

説破できそうにないので、素直に従う。

「何所へ行くの?」

食事を終え、街を歩くはじめくんに聞く。

「帰って副長の仕事を手伝う。」

カッと身体が熱くなるのを感じた。

「なに?」

はじめくんを引っ張って近くの桟橋の下まで来る。

「何のつもりだ?」

川がサラサラ流れて居る。
橋で強い日差しが遮られている。
人目が無い。

「はじめくん、もう一度、告白しようと思う。」

はじめくんは、訝しげな顔で見ている。

.「君が好きみたいなんだ。」

真剣な様子に、流石に冗談では無いと分かる。

「俺は…」

総司が好きだ。
ずっと好きだ。

でも、あの人は…。
副長は真剣に愛してくれている。
今更…。

「あんたの気持に応えられない。」

応えられる筈がない。


翠の瞳が揺れる。






「副長、入ります。副長?」

扉から聞こえるのはいつもの声。
スッと入って来た斎藤に驚き、顔を向ける。

「斎藤?何で此処に居るんだ?」

「約束を忘れたのですか?」

非番の日の夜は会いに来ると言う?
律儀に来てる場合じゃねーだろ。


「…昼間、総司と想いが通じたんじゃねーのかよ?」

斎藤は、丸い目を向け、顔が曇る。

「無理だと言いました。」


「何で?おめえ、ずっと好きだっただろう。俺に同情してんのか?」

「副長」

「生憎だが、おめえに同情される程落ちぶれちゃいねえよ。」

語尾が震えちゃいねーだろうか?

フッと顔を上げると、斎藤が、今にも涙を溢しそうな、潤んだ蒼い目で見ていた。

なっ…んだよ。
泣きてえのはこっちだよ。
抱きしめたくても、してやれない。
グッと拳を握る。


「土方さん、俺は、土方さんの事が好きです。だけど、…それは総司に対するものとは違うものです。」

斎藤の口から紡がれる言葉は、傷を癒す為の薬。

「ああ、わかってる。早く、あのバカの所に行ってやれよ。今頃、あいつの事だから拗ねまくってんだろ。悪い方向に行かねえように、止めてやってくれ。」


悪い方向に行く総司を想像して、二人は青ざめる。
斎藤は頷き、土方も頷いた。

「斎藤、奴が嫌になったらいつでも来いよ。」

土方は、顔を見せず、机の書類に目をやりながら言った。

斎藤は、小さく礼をして、出ていく。


「総司。」

返事がない。

夜なので大きな音がたてられず、
返事がないまま、部屋の戸を開けた。

こちらに背を向けて寝ている。

「総司」

間近で幾ら呼んでも返事がない。

戸外に居る時から、気配で気付かないはずがない。
寝たふりをしている。

腹がたってきて、バシッと、布団の上から身体を叩いた。

「痛いよ。」

「…」

何と言えば良いのだろう。

「何しに来たの?」

上体を起こす。

さっきフられて落ち込んでいるんだけど。

「…。」

「何で泣いてるの?」

「泣いてなどいない。」

僅かな月明かりが身体を照らし、蒼い瞳がキラキラ輝いて見える。


「…もしかして土方さんと別れてきたとか。」


「…。」

はじめくんは、複雑な表情をした後、赤面している。

え?神様、これは夢ですか?

さっき自分を振った人が夜中に部屋を訪ねてきて、
どうやら、恋人と別れて来たらしい。


「総司、今から告白しても聞いてくれるだろうか?」

コクコクと、黙って頷く。
身体が熱い。きっと、僕も真っ赤になっていると思う。

「先程、応えられないと言ったが、俺は総司が好きだ。もう一度考えてくれないだろうか?」


手を伸ばして、はじめくんの身体を抱きしめる。
僕より幾分か小さな身体は、両腕の中に収まる。

頬に手を添え、唇を重ねる。
何度か繰り返すと息があがっている。

「あの、はじめくん、この先って」

「無理するな。」

「無理とかじゃなくて」


シたいんだけど、同性ってどうすればいいわけ?
いや、女性にするのと同じか?

前途多難な続きはまた今度。








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後日

「はじめくんて僕を好きだったって言ってたけど、何で土方さんと付き合っていたわけ?」

「それは、あんたが、俺に気がないと言ったからだろう。」

沖田は責めるような言葉を吐くが、斎藤は寧ろ言い返す。

はじめくんが、土方さんの命令に逆らえないのは分かるけど

「僕、そんな事言った?」

見当がつかない。

「副長と話していたのを聞いていたのだ。」

「やだな、盗み聞きしてたの?」

「押し入れで聞いていた。…何所に行く?」

「ちょっと、今すぐ斬らなきゃいけない人が」

眩暈が。

「あんた、後でとったとか絶対言わないと言っていただろう。」

「う、…うん。」

ぐうの音も出ない。



end