注意)マーカー×アラシヤマ表現あり
士官学校時
―あの時から―
(本当は分かっていた。)
学校の地下に監禁3か月目。
「師匠!」
岩に囲まれた地下牢に居たアラシヤマは、嬉しそうにかけ寄る。
マーカーは、牢の鉄柵に捕まるアラシヤマに近付き、手を伸ばす。
叩かれるのだと思った。
「…師匠?」
唇が重なる。
何故ここで?
師匠に教わった、確実に相手を往ねる技。
こうしてる間に発火するのだ。
久しぶりに会うなり、本気の口付けをしてくる。
「ちょっ、ししょっ」
牢の鉄パイプごしに、腰に手を回され、何度も重なる唇。
発火してみろって事?発火しても相殺されるだけやし。
分からず、されるがままにしてると、だんだん深く口付けられる。
ここまでは、した事が無かった。
「はあっ。何考えてはるんどすか!」
涙目で苦しそうに呼吸をしている。
「久しぶりに、どんなもんかと思ってな。」
いつも分からないけれど、ますます己の師匠が分からなくて、フラッとする。
まあ、初めは怒っていたが、今は遊んでいるのだろう。
口の端が上がっている変化で分かる。
「前から言っているが、この学校は下劣な変態の巣窟だ。今以上の事をされそうになったら、」
「師匠、この学校で、わてに触って来ようなんてお人はもう居りまへん。」
フフッと、寂しそうに笑う。
発火のコントロールなんか、初歩の初歩。それを学ぶために幼少期から自分に弟子入りしていて、完璧に修めた。
いくら気持ちが高ぶろうとも、本当は発火を押し殺せる。
なのに、このバカ弟子は、総帥の息子に触れて、焼いた。
「師匠、様子を見に来てくれはったんどすよね?わて、結構快適に暮らしてますえ。教科書も有るし、周りが岩やから、火も出せるし、案外広いから鍛練してますし。ヒカリゴケの」
「うるさい。」
見れば分かる。すごくお前には快適そう。って、それでいいはずが無いだろう!
「お前が此処を出るのを早めて貰いに来たんだが、加えて忠告だ。総帥の息子にもう近づくな。」
アラシヤマの顔が凍りつく。
「当たり前どす!あいつのせいで、わては素敵な学園ライフを!」
だいぶ恨んでいる。
だが、お前が焼いたんだろう。発火のコントロールが出来ない程の事態で。
それは即ち、相手がシンタローだったからだと、同じ炎使いのマーカーは知っている。
『恋』だろうな。無意識に。選んでしまうのだ。
絶対に、言いたくない。
幸い二人はいがみ合っているし、これ以上の何かはないだろう。
非生産的な事は、止めなければ。
「師匠、わて、もっとここに居てもええかなと思うんどすけど。」
「ダメに決まっているだろう、バカ弟子が!」
これ以上、無機物と会話が出来る人間になって欲しくない。
…おそらく、いや、確実にこの学園で一番強い力を持っているのは、アラシヤマだ。
そう育てたのに、
シンタローにだけは絶対敵わないか…。
檻のカギが外される。
「もう一度言うが、非生産的な輩に襲われそうになったら相手を殺すか、自決だ!」
「師匠、分かっとります。」
end