士官学校

若干前の続き
ホテルにて

ー林間学校ー


「あー、やっぱり本物の温泉はいいべな。」

「ミヤギくん、お願いだから前を隠して欲しいっちゃ。」

「何言ってるだ?」

大浴場。
15人程が一編に入らされているが、男だらけのホモ集団、視線の集中が顕著だ。


「早く、出よう、ミヤギくん。」

トットリは、狂気を感じていた。

「折角、本物の温泉なのに、もう出るだか?」

「後で、いつかまた来ればいいっちゃから!」

「んだか?」

二人は身体を洗うとすぐに出る。

うー、異常だったっちゃ…。
トットリは軽くトラウマになった。

*


「わての名前が…ない。」

不運な男、アラシヤマは、また問題に差し掛かっていた。

宿舎に着くなり、各自入るようにと渡された入浴の風呂割りにも、部屋割りにすら自分の名前が無い。

書き忘れたんやなと、いつもの事に納得する。

帰ってええんやろか?
また、師匠に怒られる。
一応、授業やもんなぁ。

でも、この分だと食事もなかったりして。

アラシヤマは部屋割り表の前で、考えていた。

此処は海の前やし、砂浜で一人で寝ればいいなと思った。

入浴は、別にいつ入ってもバレなそうだから、後で入ろう。

で、身支度を整えればええどすな。
一人好きなわてには、なんて事ありまへんわ!書き忘れた先生が悪いんや。

アラシヤマは妙な所でバイタリティを発揮する。


*

夕飯は、流石に人数分有った。

自分以外皆、浴衣を着ているのを見ながら、ポソポソ食べて、さっさと食堂を出る。

一人で入浴して、浴衣に着替えて、砂浜に座り、海を見ていた。

暫くすると、クラスメイト達がわらわらとこちらへ来る。
どうやら、キャンプファイアーをするらしい。

青春か!?

いや、青春だろうが・・・。

アラシヤマは、物陰に隠れる。

薪に火を着ける時だけ、自分が居ない事に気付かれたらしい。

わてはチャッカマンか何かどすか?

部屋すら割り当てられてないのに、気付いて。異常事態やろ。

「まったく、また彼は勝手な行動をして、困りますねー。」

先生の声が聞こえる。
堪えるんやわて。目から汗が。

今度は、生徒が出て行って、ものけの空になったホテルに戻る。

マイムマイムでも踊り出しそうな同級生たちに、吐き気がした。

「何でここに居るんや?」

「あ?おめー、何処に消えてたんだよ。」

ロビーに何故かシンタローが居る。

「輪の中心にならんでええんどすか?」
いつも中心の坊っちゃんが。

「あんなダッセー事出来るかよ。あいつら、マイムマイム踊り出しそうな勢いだったぜ。」

こう言う所は気が合う。

「せやな。」

ロビーにも居れないし、立ち尽くして、また外へ向かう。

「ウロウロと何やってんの?」

うー、坊っちゃんに何が分かるんや。どうせ自分だけ一人部屋とかスイートなんやろ。

いつの間にかシンタローが目の前に立っている。

「関係ないやろ。」

「その浴衣でウロウロしてたら、拐われるんじゃねー?」

「はい?なんやて?わてが?」

何言ってんやろ。アホになったん?

「部屋で大人しくしとけば。」

「その、おとなしゅうしたい部屋が、何故かわてだけ無いんやけど…。」

沈黙が流れる。

「おう、お前たちも帰って来てたんじゃのう。わしも、おどりは苦手でのう。」

コージが帰って来た。
クラスメイト達はマイムマイムをやっちまったらしい。

「ああ、何か、こいつの部屋がねーらしいんだけど。」

シンタローは、ひきながら言う。

「ああ!誰かがどうしても一人部屋が良いとか言って、一人溢れるから、床で寝てもらおうとか、さっき教師連中が言っとったのう。」

コージ情報が入った。

「…シンタロー、あんさん、何人部屋どすか?」

「…一人。」

ゴオオと、形がない炎が、アラシヤマのバックに見えた。

「アラシヤマ、何処に行くんじゃ?」

「わては、広大な大地と寝ますよって、探さんといて。」

走っていく。

「あいつ、何を怒っとんじゃ?あんな艶っぽい格好で外に出て、何考えとるんじゃろうのう。」

浴衣の艶かしさに当てられているのは、やはり自分だけでは無かったらしい。

シンタローは、アラシヤマを探しに外に出たが、見つからなかった。




end