やや長文
シンアラ前提の、コージ→アラシヤマ。後にシンアラ。



− 相思 −



好きなのかもしれない。

いつの間にか、身体の関係を持ってしまった相手を想う。
とは言え、最期にシンタローと寝たのはだいぶ前だ。

自分は、あんなに嫌がっていたのに、
今となっては良かったような気さえする。
他の誰かと寝たいと思った事が無く、思いつかない。

思い出して、顔が熱くなり、俯く。


なのに、好きではないと言ってしまった。
好きな筈が無かったのに。


ハアッと、一人ため息をつく。


「アラシヤマ、どうしたんじゃ?」

「コージはんもサボりどすか?」

こんな時間に、こんな場所に居るなんて、サボりだと決めつける。


「休憩じゃ、休憩。」

屋上はいい風が吹いていて気持ち良い。


「何を物思いに更けっとったんじゃ?」


「…」
アラシヤマは考える。

「色恋沙汰じゃろう?」

「まあ、そうどす。」


コージは、持っていた煙草に火をつけてくわえる。
遠くを見る目が、頼もしく見えた。

と言うか、相談できそうな相手が他には居ない。


「コージはん!どへんしたら、相手を好きか分かるんやろか?」

急に頼って来たアラシヤマに、コージは吃驚して目を丸くするが、微笑む。

「そんな事は考えんとも分かる物じゃき。」

「分からないって事は、好きやないんやな。」

「何ホッとしとるんじゃ?」

こんなに相手を考えてる時点で好きに決まっとるのにと、コージは思うが、黙秘した。

「いい事を教えてやろうか?」

「何?」

ちょいちょいと、アラシヤマを手招きして呼ぶ。

耳打ちされると思っていたが、近づけた顔で、唇にキスをされた。

「な…」

「どうじゃ?誰でも一緒なら、好きじゃないじゃろうな。」

一緒………じゃない。

気持ち悪い。
シンタローとしたい。
罪悪感を感じる。

アラシヤマはヨロヨロと、膝をついた。

「うわ、そんなに嫌がられると傷つくのう。」

「おおきに、コージはん。わて、どうやら、あの人の事を好きみたいどすわ。」

そんな陰険な顔で言わんでも。

アラシヤマはヨロヨロと、屋上を後にする。

「大丈夫か?…」

去っていくアラシヤマを見てから、コージは先程重なった唇を押さえる。

「甘いのう。」

ずっと遠くの空を見つめて呟いた。








「あそこに居るの、アラシヤマさんじゃ有りませんか?」

廊下を通過中、ティラミスが、隣りの棟の屋上を指差して言う。

「よく見つけるなぁ。」

流石、良くできた秘書だこと。
常に気を張って居るのだろう。

屋上を見ると、小さくしか見えないが、確かにアラシヤマと、隣りにコージが居た。

アラシヤマは間違える筈が無いし、コージも、あの大男は目立つ。

アラシヤマには、自分を好きではないと、ハッキリと言われてから、まともに会っていない。

あんな所でサボってやがんのか。

足を止めて、見つめてしまう。


何だか様子が変だ。

コージがアラシヤマを掴まえて、シルエットが重なる。

ああ、キスしてんのね。
えー…

心臓が痛い。
具合が悪くなって来た。

「総帥、お気持ちは分かりますが、気になさらずに、行きましょう。」

ティラミスは、サラッと言う。

「気持ちが分かるって? 」

「嫌な物を見て、具合が悪いのでしょう?顔色が青いです。」

ああ、嫌な物に違いない。

コージが好きだったわけ?
俺を拒否してるわけだな。

もしかしてずっと付き合ってた?

「頭が痛ぇ。」

考えるのをやめないとぶっ倒れちまいそう。

悲しさと切なさと怒りが混ざり合う。

「総帥、お時間が。」

「ああ。」

屋上をチラッと見ると、二人は居なくなっていた。

会議室に向かう。
眈々と、仕事をこなさなくては。


シンタローは、睨むように前を向く。








アラシヤマは、久々に任務報告でシンタローと顔を合わせる。

嘘をついていた事を謝らないと。
好きじゃないと言った事を。
心臓がバクバクする。

眈々と報告をするが、様子が変だ。
身体を向こうに向けて、全くこちらを見ようとしない。


「総帥?」

「以上か?」

報告は終わった。

自分に気がないと知ったらこうなるん?
そないに態度を変えんくてもいいやろ?


「終わったなら下がれ。」


公私混同や。
いやいや、謝らないとアカン。


「シンタローはん、」

「聞きたくない。」


話しを聞く気がない。

「話しが有るんやけど」

「出てけって言ってんだろ。今、お前の顔を見たくねーんだよ。」

「じゃあ、とことん見せてやるわ、アホ。なんなんや、それ」

向こうも立って、グッと、胸ぐらを捕まれた。

「今お前を見てると怒りで何するか分かんねーっつってんだよ!」

息が出来ず、苦しくて顔が歪む。

「お二人共、やめて下さい!」

大声で喧嘩しているのが聞こえて、ティラミスが入って来る。

「あんさんには関係ないやろ」

「アラシヤマさん、後で言おうと思ってましたが、屋上でサボったり、場をわきまえずにあんな事をするのは如何な物かと。風紀が下がります。総帥は具合を悪くしておいでです。」

頭が白くなる。
え?何で知って?

「ティラミス、いいから退室しろ。」

シンタローは小さくかぶりを振った。

「…」

「…」

鋭い視線は何かを物語っている。

どう考えても、今弁明しても逆効果だ。
自分も退室したいが、誤解だと伝えなくては。

「コージはんは、」

「ウルサイ」

子供か!

「そんな関係やない。」

「へえー。」

間を詰められる。
怖い。

「そんな関係じゃなくてもキスするんだ。どうりで。」

ああ、もう、何でこうなるんや!
シンタローを睨む目に涙が浮かぶ。

「信じて貰えんやろーけど、こないだの事謝ろう思うたん…」

ああ、もう。

アラシヤマは、踵を返して退室する。

カッコ悪い。


シンタローは、アラシヤマが居た空間を眺めていた。

「馬鹿やろー」

虚しく言葉が暗い空間に沈む。








シンタローになるべく会わないようにした。
なんとかなるもので、もう半月にもなる。


「アラシヤマ、好きな人に告白出来たか?」

コージに廊下でたまたま会うと、バシッと背中を叩かれる。

「聞かんといておくれやす。」

「は?上手くいかんかったのか?」

「ええんどす。上手くなんていくはず無かったんどす。」

陰鬱。

「美人が台無しじゃぞ!」

ハハハと、背中をバシバシ叩かれる。

「気分転換に飲みに行こう。」

「そうどすな 。行きまひょうか。」


アラシヤマの発言にコージは考えた。


総帥室

「今日の報告はそれだけか?」

シンタローは、ティラミスとチョコレートロマンスに聞く。

「ああ、もう一件、武者小路さんから、一言伝えてくれと頼まれて、よく分からないのですが、」

「なんだ?」

チョコレートロマンスの言葉に、眉間に皺がよる。

「とってもいいのか?と。」

「ダメだと伝えろ。」

「ああ、はい。」

「総帥、どちらへ?」

「出掛けて来る。」

「今晩は会食の予定が」

シンタローは無視して部屋を出る。

秘書たちは話し合い、キンタローに電話をする。




「アラシヤマ!」

アラシヤマの部下達は、総帥の来訪にびびる。

「アラシヤマさんは、今日は帰られましたが。」

「ああ、そう。何処行ったのか分かる?」


「さあ。」
「飲みに行くと言っていました。」


「そう。」

あの、出不精、人見知りが一人で飲みに行く筈がない。




飲み屋


「で、聞いてはるの?」

「ああ、聞いちょる聞いちょる。」

何杯目かのサワーの効いた酒をアラシヤマは飲んでいる。

笑っているコージは、そんなジュースで良く酔えるもんだと、日本酒を飲みながら思った。

「それで、どうなったんじゃ?」

「信じて貰えんかったんどすわ。まーったく信じて居らへん。」

う…、さっきまで怒ってたんに、切ないモードに入ったのう。

感情豊かに一生懸命説明している様子も可愛かったが、
伏し目がちな目でグラスを眺める光景も綺麗だなと思った。

「つまり、ワシがヌシにキスしてるのを見て、怒って話しにならなかったと。」

「そーどす。」

「小さい男じゃなー。そんくらい、誤解だと言ってたら許しても良いじゃろーに。」

「あの人の悪口は言わへんといて!」

コージは苦笑する。
逆に、シンタローが誰かとキスしとったらどうするんだろうと思うが、言わない。

「ま、ワシは味方じゃき。」

自分のせいも有るし。
ポンポンと、アラシヤマの頭を撫でる。

もっと注文するかと聞いて、目の前の揚げ物を口に入れる。

首を横にふるアラシヤマは、豆腐のサラダを食べていた。

だいぶ酔っている。

「泣いちょるのか?」

コージはアラシヤマの目から零れる涙を人差し指で取ってやった。

「なあ、そんなに辛いんなら、ワシと…」

「アラシヤマ!」


割り込んで来たのは、赤い軍服姿の総帥。

「はい?」

肩で息をしており、だいぶ怒っている。

「コージ、てめぇ!」

「なっ、何しはるんや。何でここに?」

コージに殴りかかりそうなシンタローを見て、盾になる。

「お前は、何度浮気する気だ。」

「は?」

手を引っ張られる。

「コージ、やらねえから。」

シンタローはコージを後ろ目で見る。
会計に札を置いて、
アラシヤマを引っ張る。


「ご馳走様」
コージは二人を見ながら、日本酒をあおった。








「ちょお、放せや」

「うるせー」

外を歩く。
シンタローに引っ張られながら。

喧騒とした街中で沢山の人とすれ違う。

酔って熱くなった身体に外気が心地よい。

何でここに居るのか、何をしているのか、聞きたい事が沢山有る。

「痛い」

シンタローは、掴んで居た手首を放す。

「お前、コージと何なんだよ」

「飲んでただけやないの」


シンタローは、適当に大きなホテルに入り、ギョッとする。

「何で?帰らへんの?」


今帰ってキンタローに見つかって、しょっぴかれるのは御免だとシンタローは思う。
朝帰りした方が説明がつく。

アラシヤマを見つめて、手を引っ張る。

最上階にチェックインする。
アラシヤマは、勿体ないと思うが黙って着いて行く。

部屋に入るなり、乱暴に唇を重ねられた。
そうするのが当たり前のように。

やっぱり嫌ではない。
寧ろ、良い香りがする。
安心する。
言わなくてはという思いが振り返した。

「あー、疲れた。」

シンタローは、赤い服を脱ぎ、ベッドに横になってしまった。

「シンタロー、」

「…」

顔をアラシヤマに向ける。

「コージはんに妬いてるみたいやけど、あんはんとはキスも嫌やないし、もっとしたい思うんはあんはんだけで、つまり…好きどすわ。」

「…おめえ、気づくの遅っせえ。許さねー。」

「は?」

「もっと好きだって言え。俺だけだと誓え。」

「なっ…。好きや。…シンタローはんだけとしか、しとぉないし、しない。」

躊躇ったが、言わなければいけないような事をしたと言う後ろめたさがあった。
酔っていて良かったと思う。

シンタローも頬が赤い。

手招きをされ、ベッドに近づくと、手を引っ張って横に寝かされ、上に乗られる。

「アラシヤマ、好きだ。」

「わても、好き。」


遠回りしまくったと思う。

初めて士官学校で出会った時の事からが走馬灯のように、脳裏を駆け巡る。
あんなに嫌だったのに。
殺したいと思う程。


唇が重なる。



end.





呼び方はわざとです。