−trip−
え?
アラシヤマ?
泣いてる?何で?
「お前、どうs」
言い終わらない内に、抱きつかれた。
どうしたんだろう?
耳元で言われるのは、
「好き」
「好き」
「好き」
一番聞きたい言葉が、一番聞きたい相手の口から紡がれる。
こんなに幸せな気持ちになる事って有るのか。
って、ダメだ!
恐らく、情に流されてるだけの奴を、もう放してやれなくなる。
両手で、自分にしがみついている相手の肩を放す。
涙目に自分が映っている。
何も言えずに、苦笑した。
俺の方がどれだけ好きだろう。
どれだけ、嫌いになる努力をしただろう。
幸せになって欲しい。
「…さん!シンタローさん!」
「え?」
ゆっくりと目の前の景色が変わる。
「大丈夫どすか?」
目の前に、自分を揺すっているリキッドと、先程とは違い、イキイキしているアラシヤマが居た。
「え?」
「シンタローさん、あのキノコにトリップさせられたんすよ!」
「トリップ?何それ?」
「あいつの胞子を吸い込むと、素敵ワールドにイッちゃうんす。」
ポフポフと虹色の粉を巻き散らかすキモいキノコを指差す。
シンタローは、目が合ったアラシヤマにタメ無しガンマ砲を打ち込んだ。
「なんでー!?」
吹っ飛んでいくアラシヤマの叫びと、リキッドのツッコミが重なる。
「ちょっと、お姑さん!アラシヤマは別に何もしてないじゃないっすか!」
「存在がウザいんだよ。」
ああ、ウザい!ムカツク!!!
てか、恥ずかしい。
「なんつー自分勝手な!弱いものイジメ反対!ウザいだろうけど、実はいい奴なんすよ。」
「わーってるよ、んな事。」
誰よりも分かってる。
そして、弱味を握られてるのもこっちだ。
end